大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和47年(ネ)1398号 判決

控訴人

浦為徳

右訴訟代理人

武藤達雄

田中寿秋

被控訴人

浦二三子

浦勉

右両名訴訟代理人

瀬戸勝太郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人らの主位的請求原因(一)(本件土地建物は浦福松の所有に属していた。)、(二)(本件土地建物につき、受付昭和二六年一〇月一一日、原因同年同月一〇日贈与の福松から控訴人への所有権移転登記・本件登記が存在する。)、(三)の(3)(福松は、昭和二六年一一月二日死亡し、控訴人、浦平雄らの六名が福松を共同相続し。平雄は同三九年二月一六日死亡し、被控訴人両名が平雄を共同相続した。)の事実は控訴人の認めるところである。

二A所有不動産につき甲が不法にAから甲へ贈与による所有権移転登記をした後、Aが死亡し、甲、乙、丙がAを共同相続した場合、右所有権移転登記の抹消により第三取得者の正当に取得した権利を喪失させる事実の認められないかぎり、乙は共同相続による共有持分権に基づき甲に対し右所有権移転登記全部の抹消登記請求権を有すると解するのが相当である。その理由は次のとおりである。(1)甲、乙がAを共同相続した後、相続財産に属する不動産につき甲が不法にAから甲へ相続による所有権移転登記をした場合(最高裁判所昭和三八年二月二二日第二小法廷判決、民集一七巻一号二三五頁の場合)と異なり、設例の場合、右所有権移転登記は、登記原因たる法律行為が全面的に不存在・無効であるのみならず、相続開始前になされた登記であるから、右所有権移転登記を「Aから甲、乙、丙への共同相続による所有権移転登記」に更正登記をすることができない。(2)設例の場合、第三取得者の正当に取得した権利を喪失させることなく、右所有権移転登記全部の抹消登記をすることによつて、実体的な権利変動の過程と態様を反映した登記(Aから甲、乙、丙への共同相続による所有権移転登記)をすることができる。

三右の法理によれば、控訴人の贈与の抗弁の認められないかぎり、被控訴人らの主位的請求原因(三)の(1)、(2)の争点につき判断をなすまでもなく、被控訴人らは控訴人に対し本件登記全部の抹消登記請求権を有する。

四そこで、控訴人の贈与の抗弁について考える。

乙六号証(不動産贈与証書)には、控訴人の抗弁事実に沿う記載がある。しかし乙六号証が作成名義人である福松の意思に基き作成された旨の当審控訴人本人の供述部分は、信用できず、他に乙六号証が真正に成立したことを認め得る証拠はない。かえつて、〈証拠〉によると、福松は昭和二四・五年頃から中風のため寝たり起きたりの状態となり、同二六年春頃からは床に就いたままの病状で、同年一〇月頃には字も書けず、舌ももつれる状態にあつたこと、控訴人は同月一〇日頃司法書士三村幸雄に依頼して本件土地建物を福松から控訴人に贈与する旨の証書の作成及び所有権移転登記手続を依頼し、同司法書士が記名した福松名下に控訴人がかねてから所持していた福松の印鑑を用いて押印して乙六号証が作成されるにいたつたものであることが認められ、右事実及び後記認定の事実からすると、乙六号証は福松の意思に基かないものとの疑いを消すことができないから、これをもつて控訴人主張の贈与の事実を認める資料となし得ない。

また、〈証拠〉中には、本件土地建物につき、かねてから福松は、控訴人に贈与の意向を表示し、控訴人に対し所有権移転登記するよう勧め、ないし移転登記手続を承諾した旨の供述部分があるが、〈証拠〉により認められる以下の事実、すなわち、本件建物(本件土地は右建物の敷地)には、終戦後平雄が福松とともに居住して農業を営み、福松死亡後は平雄及びその妻子である被控訴人ら並びに浦雪枝が居住し、控訴人は長男であるが家業である農業を行わず他に住居を持つていた事実、福松の生前中、平雄及び被控訴人らは、福松が本件土地建物を控訴人に贈与する旨を福松その他の者から聞かされておらず、被控訴人らは、昭和四四年にいたり控訴人から明渡を求められて初めて本件登記がなされていることを知つた事実から考え、信用できない。他に控訴人の抗弁を認め得る証拠はない。

五よつて、被控訴人らの控訴人に対する本件登記の抹消登記手続を求める主位的請求は、正当として認容すべきであり、理由は異なるが、右請求を認容した原判決は結局正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(小西勝 入江教夫 大久保敏雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例